ポリシー・規程

長崎大学営業秘密管理指針

-学内情報の総合的管理に向けて-

平成20年4月1日制定

1.情報管理と営業秘密

 長崎大学においては,学術・研究はもちろん,教育,組織運営,社会貢献等の多様な分野についての大量の情報が,関係する教職員によって保有され,かつ,流通されている。
長崎大学職員就業規則第34条第2号では,「職務上知ることのできた秘密又は個人情報を他に漏らしてはならない。」と規定されており,また,長崎大学において保有され,又は流通している情報のある部分については,長崎大学情報公開取扱規程,長崎大学個人情報保護規則,長崎大学研究成果物等取扱規程,長崎大学研究試料等取扱規程といった規則等により管理されている。しかしながら,これらの規則等の規定は,法令に基づく義務を履行するため,あるいは長崎大学の特許権等の知的財産の取得のために,長崎大学の教職員に秘密保持に関する一定の義務を課するだけで,当該情報が外部に流出した場合に備えているものではない。
不正競争防止法において「営業秘密」については,本人の同意なく外部に流出した場合等一定の場合には,これを取得した第三者に対して,当該情報の取得,開示,使用の禁止を求めることができることを定めているほか,刑事告発も可能である。刑事罰は10年以下の懲役又は1,000万円以下の罰金若しくはその両方である。
「営業秘密」とは,「秘密として管理されている生産方法,販売方法その他の事業活動に有用な技術上又は営業上の情報であって,公然と知られていないもの」をいうと定義されているが,ここでいう事業活動とは,営利事業に限らず,国立大学法人の上記種々の活動を含む。したがって,学内における重要な情報について「営業秘密」としての保護を受けられるように管理しておくことにより,不測の事態が生じた場合にも,一定の対応が可能となる。
一方,不用意に他人の営業秘密を不正に利用することとなった場合には,せっかく取得した有益な情報を利用できないという事態も生じえることとなるほか,情報管理に関する社会的な信用を失い,企業や他の研究機関等との協力関係に支障を生じるおそれもある。なお,営業秘密を不正に取得した個人だけでなく,当該個人から事情を知って営業秘密を取得して開示,使用する個人や法人にも,上記と同様の刑事罰が科される。

2.営業秘密管理の基本原則

 上記のとおり,不正競争防止法では,「営業秘密」として保護されるためには,当該情報が,次の3つの要件を満たすことを求めている。
(1) 秘密として管理されていること(秘密管理性)
(2) 産業上又は技術上有用であること(有用性)
(3) 公然と知られていないこと(非公知性)
このうち,有用性や非公知性は,情報そのものの属性であり,管理によって変更できるものではないので,大学においては,各研究室が保有する有用かつ非公知の情報を秘密として管理することが営業秘密として保護される重要なポイントとなる。
ここで,「秘密管理性」が認められるためには,その情報を客観的に秘密として管理していると認識できる状態にあることが必要である。すなわち,
(1) 情報にアクセスできる者を特定すること
(2) 情報にアクセスした者が,それを秘密であると認識できること
が要件となる。
具体的には,
(ア) 情報の管理者を決め,
(イ) 秘密として管理する情報については,みやすいところに「秘密情報」「学外秘」等の表示をして,
(ウ) 当該情報にアクセスできるものを指定し,
(エ) 当該情報については,補完管理を徹底し,一般公衆の立ち入りできる場所への放置はもちろん,権限のない者がアクセスする可能性のある他の公開情報や秘密情報との混蔵保管をさけ,
(オ) 情報の責任者の承認なくアクセス権限を有しない誰でもが当該情報にアクセスすることができないように,情報管理責任者が,情報を保管している事務室や保管場所の施錠管理,コンピュータのアクセス制限等を行い,また,
(カ) 就業規則等により秘密保持義務を負っていない学生その他の第三者が容易に営業秘密にアクセスしたり開示を受けることがないようにするとともに,
(キ) 教育の必要上等やむを得ず当該学生等の第三者(他の大学の研究者等を含む)に営業秘密を開示又は提供する場合(開示又は提供した後に秘密保持を要請しても役にたたない場合が多い)は,事前に秘密保持契約の締結が必要である。なお,学生等については,卒業後の就業に支障が生じないよう開示する情報の範囲について留意するとともに,最終的な秘密保持義務の範囲や期間を合理的な範囲に限定しておくことが望ましい。
上記のような管理が行われている場合に,窃盗,詐欺等によりこのような管理を侵害し,又は情報管理規則や秘密保持契約に違反して,営業秘密が取得,開示,使用された場合にはじめて,当該営業秘密の取得,開示,使用の差止めや損害賠償請求といった民事救済や刑事告発が可能となる。
逆に,管理が不十分と認められる場合や,漏洩した情報が公開されてしまったような場合には,営業秘密としての保護は受けられないので注意を要する。
上記の他,営業秘密としての管理については,経済産業省が「営業秘密管理指針」 (平成15年1月30日公表,平成17年10月12日改訂)を公表している。これは,過去の裁判例に基づき,事業者が事業活動に関する情報をどのように管理しておけば営業秘密としての保護を受けられるかについて解説している。また,特に,営業秘密についての知識が少ないと思われる大学における営業秘密管理に関するものとして,「大学における営業秘密管理指針作成のためのガイドライン」(平成16年10月公表,平成18年5月改訂)が公表されているので,参照されたい。

3.営業秘密の不正使用等を避けるための基本原則

 大学の営業秘密に関しては,役員や職員等が,就業規則その他に違反して,大学が管理している営業秘密を取得し,使用し,又は開示することが営業秘密の不正使用となる。
共同研究その他に関連して適法に他人の営業秘密を受領している場合には,その開示にあたって示された契約等に定める条件に違反して,営業秘密取得し,使用し,又は開示することが営業秘密の不正使用となる。但し,学会発表等のまったく秘密という認識の可能性がない状態で開示された情報については,秘密保持義務を負う可能性はないと考えられる。
転職者や留学生その他企業や他の研究機関からの研究員等(以下,合わせて「研究員」といいます。)の受入れに際しては,当該研究員等に,契約等により認められている場合を除き,本学以外の他人の営業秘密の開示,使用をしないように注意を与えると共に,当該研究員等が他人に秘密保持義務や競業避止義務を負っていないかを確認し,万一,本学での研究員等の業務の遂行に関連して,当該秘密保持義務等の侵害のおそれが生じる場合には,業務内容の変更その他適切な措置をとるように努めることが必要である。
また,当該研究員等から提供された情報等が,他人の営業秘密である可能性があると考える場合には,それが,他人の営業秘密ではなく,研究員等が開示,提供することに制限はないことの確認をしておく必要がある。これは,学外者から開示又は提供された不審な情報については,同様である。
上記措置を怠り,または,確認がない場合には,受領者及び本学が,事情を知って営業秘密の不正な開示を受けたものとして,刑事罰の対象となるおそれがある。なお,当該技術が第三者にライセンス等されていれば,当該第三者についても,刑事罰はないが,使用の差止め,損害賠償等の累が及ぶ可能性がある。
上記の他,前記経済産業省のガイドライン等には,さらに具体的な記載があるので,参照されたい。

4.研究成果・研究情報の営業秘密管理への取組みの宣言

 長崎大学は,アジアを含む地域社会とともに歩みつつ,世界にとって不可欠な「知の情報発信拠点」であり続けることを使命・責務として,更なる教育・研究の高度化と個性化を推進するための基本方針の1つとして,知的財産の適正な管理を行い,知的財産と人的・物的資源を活用した地域連携,産学官連携,国際的連携を通して教育・研究成果の社会への還元を推進することを定めた。この目標達成に向けて,本学は知的財産を活用した社会貢献への取組みの展開,すなわち,知的財産立国の国是に沿って,産学官連携に基づいて,大学の発明等の技術移転を推進し,新事業,新産業等の創出に資するべく,産学官連携戦略本部の知的財産部門の整備及び機能強化等,知的財産管理体制の構築を組織的に図りつつ,社会貢献の使命を果たしてきているところである。
そのような組織的取組みの実現のために,本学教員等は,社会貢献の社会的要請を十分に理解するとともに,自らの研究成果を知的財産として保護・育成し,社会において活用することに貢献し,一方で,このように大学独自で創出した研究成果,および産学連携を通じて外部組織から入手した,あるいは外部組織と共有する技術情報等のそれぞれの営業秘密について,不正な使用ならびに不透明な流出を防止する使命と責務を負うことを宣言する。
具体的には,本学における各種研究活動の成果は,各学部又は各研究科の研究室に所属する研究者の創意と努力の賜物であり,その成果を創出したことに伴う名誉と権利は適正に保護され,確保されなければならない。特に,産業界への技術移転へ向けて特許取得を図る発明となる研究成果は,本学の事業活動に有用な資産となる情報であり,不正競争防止法上の「営業秘密」となり得ることから,その公表前においては,当該研究成果に係る情報が不用意に公開され,あるいは外部に知られることのないように適切に管理する必要がある。
また,本学が自己の実施する事業活動の過程で他者から受領する技術情報が営業秘密に該当する場合には,それを適切に管理し,営業秘密の不正使用に対して自己又は自己の被用者がトラブルに巻き込まれることを防止する必要がある。
このため,各部局の研究室に所属する者の研究室におけるかかる研究活動の成果及び他者から受領した技術情報に係るそれぞれの情報の管理に関しては,「長崎大学共同研究契約等に係る秘密保持規則」及び研究成果物の帰属及び取扱い並びに外部からの情報の受領について定める「長崎大学研究成果物等取扱規程」に従うものとする。

附 則

この指針は,平成20年4月1日から実施する。